

ここはハワイ島のマウナケア(山頂4205m)の中腹の標高2800mにあるオニズカ・ビジター・ステーションです。この扉の中にマウナケア(山)の固有種であるギンケイソウが生えているとガイドさんから聞いたので中に入って見に行ってみることにいたしました。どんな形の植物なのかは知る由もありませんが、見ると判るとのことでした。扉には次のように書かれていました。
STATE OF HAWALL
DEPARTMENT OF LAND AND NATURAL RESOURCES
DIVISION OF FORESTRY AND WILDLIFE HALE POHAKU EXCLOSURE
Estab. 1982; elev. 9000'
扉の左側にも次のような注意書きがありました。SILVERSWORDが植物の英語名だと思われたので、ネットで確認するとMAUNA KEA SILVERSWORDが英語名でした。DEPARTMENT OF LAND AND NATURAL RESOURCES
DIVISION OF FORESTRY AND WILDLIFE HALE POHAKU EXCLOSURE
Estab. 1982; elev. 9000'
AHINAHINA ENCLOSURE MAUNA KEA SILVERSWORD
STAY ON TRAIL
STAY ON TRAIL


中に入ってマウナケアの方を見た景色です。この中にギンケンソウが生えているかどうか分かりません。黄色い花が沢山咲いていました。一見して分かるとのことなので黄色い花の植物ではなさそうです。

黄色い花もきれいなので拡大写真を掲載いたしました。車で登ってくる時も沢山見かけた黄色い花だと思います。

こちらの写真にはいろんな植物が写っています。変わった植物も多いのですが、なんとなくギンケンソウとは違うように感じました。

白い花を咲かしている植物も咲いていました。
ハワイ諸島では在来自生種の植物は1800種ありますが、約85%がハワイ諸島の固有種です。鳥類では海鳥を別にすると、77種の在来種の内76種がハワイ諸島固有種で、哺乳類の在来種はコウモリの1種のみなのです。




白い花を拡大して見ました。高山植物だと思いますが、ギンケイソウではなさそうです。

探検している気分にさせられました。

敷地内に石組がありました。正面がマウナケア山頂です。マウナケアはハワイの先住民たちにとって数々の神が棲む聖地なのです。代表的な神は雪の女神ポリアフです。マウナケアの方向に向いていることから、神々に関係したものだと思われます。

ギンケイソウ探しは後回しにして、この石組を詳しく見てみることにいたしました。調べてみるとハワイ神話に登場する雪の女神・ポリアフの祭壇でした。祭壇のことはヘイアウ(heiau)で、捧げ物を置く台はレレまたはウヌだそうです。

祭壇を拡大いたしました。
ポリアフの神話をネットから転用させていただきました。
昔のハワイでは、山の斜面に石垣を築いて造った巨大な滑り台を、木製のそりに乗って滑るという王族の遊びがありました。
ポリアフは、そり滑りがとても得意でした。ある時、ポリアフが友人とそり滑りをしていると、そこに黒いマントを羽織った美女が現れ、自分とそり競争しようと言いました。さっそく美女とポリアフは、山の上から同時にそりに乗って滑り下りました。ポリアフの乗ったそりのほうが速いのは、誰の目に見ても明らかでした。競争の途中で、なにげなくポリアフは後ろを振り返ると、なんと後ろから、黒マントの美女が大きな炎の塊になって、山腹から噴出させた溶岩の上に乗って追い掛けてくる姿を目にして驚きました。黒マントの美女は、ペレだったのです!
しかし、ポリアフは急いでその場でそりから飛び降りると、あわてて逃げたりせずに、その場にすくっと立って、ペレを真正面から見据えたのです。溶岩はポリアフに向かって流れてきます・・・・ところが、ポリアフの目の前まできた溶岩は、二手に分かれてポリアフを避けるように流れていったのでした。
ポリアフはマウナケアの山頂から、氷のように冷たい風をペレと溶岩に向けて吹きつけました。
溶岩は冷えて固まり、ペレは寒さにこごえて退散していきました。

中央の大きな石が印象的でした。神聖なものだと感じます。
雪の女神ポリアフと対立関係なのが火の女神ペレ(Pele)です。上で記載の神話に出てくる黒マントの美女が火の女神ペレです。

諸説ありますが、雪の女神ポリアフ(Poliʻahu)は一般的に下記のような4姉妹という説が多いそうです。リリノエもワイアウもカホウポカネも雪の女神とされることがあるそうです。カホウポカネはハワイ島のフアラライ山の女神との記述が多いのですがWikipediaではマウイ島のハレアカラ山の雪の女神(?)と書かれています。リリノエもハレアカラ山の雪の女神との記述もありました。右の2枚の写真はポリアフを描いた最近の絵画です。

次女 霧の女神 リリノエ Lilinoe
三女 湖の女神 ワイアウ Waiau
四女 衣の女神 カホウポカネ Kahoupokane

ポリアフの祭壇あたりの航空写真です。❺がオニヅカ・ビジター・ステーションの建物で、

マウナケアの雪の女神ポリアフのご利益(ごりやく)があったのか、遠くに銀色に輝く草が生えているのが目に飛び込んできました。「これがギンケンソウだ」とすぐに分かりました。ギンは「銀」でケンは「剣」だったのです。つまりギンケイソウは漢字で書くと銀剣草でした。確かに見ればわかる。でした。場所は、上の航空写真でポリアフの祭壇の少し東側(右側)のエリアでした。

近づいてよく見ました。サボテンや多肉植物のように見えますがキク科の植物だそうです。植物の分類を越えて環境が形を作るのだと実感いたしました。進化の不思議を感じました。

不思議な植物です。

次々とギンケイソウを見つけました。下記は十分に成熟した個体の特徴です。開花まで5年~50年もかかる非常に成長の遅い植物です。
葉長 30~40cm
花茎 70~250cm(最大高さ:300cm)
開花 7~10月
頭花 最大500~600個
標高 2100~3750m

葉が出ている部分を拡大いたしました。



被子植物 Angiosperms
真正双子葉類 Eudicots
コア真正双子葉類 Core eudicots
キク類 Asterids
真正キク類Ⅱ Euasterids II
目 キク目 Asterales
科 キク科 Asteraceae
属 ギンケンソウ属 Argyroxiphium
種 ギンケンソウ Argyroxiphium sandwicense
和名 銀剣草
・ハワイ島マウナケア(山)
亜種 A. sandwicense subsp. sandwicense
英名 Mauna Kea silversword (マウナケア・ギンケンソウ)
・マウイ島ハレアカラ山
亜種 A. sandwicense subsp. macrocephalum
英名 Haleakala silversword 又は east Maui silversword

かなり広い範囲で見つけることが出来ました。
Wikipediaによるとギンケンソウ属(Argyroxiphium)には現有種が5種と絶滅種が1種が書かれていました。→翻訳

現有種
Eke silversword
Greensword
Argyroxiphium × kai D.D.Keck (A. caliginis × A. grayanum)
Mauna Loa silversword (or Mauna Kaʻū silversword)
Silversword ギンケンソウ
亜種 Mauna Kea silversword ハワイ島マウナケア固有種
亜種 Haleakalā silversword マウイ島ハレアカラ山固有種
絶滅種(1945年以前)
East Maui greensword
以前は含まれていた(現在はDubautia属)
Dubautia gymnoxiphium

いろんな形を見せてくれていました。クリックすると特別に大きく拡大するように設定しています。ギンケンソウの英文のWikimediaでの種の保全状況にはG2と書かれていました。我々がよく見かけるCRやENやVUなどのカテゴリー分けとは表示が違うのでIUCNのレッドリストとNatureServeの保全状況を比較をしてみるとENに近いものと想像されます。G2レベルはGlobal LevelでのImperiled(typically having 6 to 20 occurrences, or 1,001 to 3,000 individuals)です。ギンケンソウが絶滅危惧種になった大きな原因は人間がハワイに持ち込んだ家畜が野生化した野ヤギや野ヒツジが食べたことだそうです。非常に成長の遅い植物なので動物に食べられてしまうとひとたまりもなかったのだと思います。一時は野生のものは36株まで減ったそうです。現在は人工繁殖をして絶滅しないように維持をしているようです。ギンケンソウが生えていたエリアが柵で囲まれていたのは、野ヤギや野ヒツジの食害からギンケンソウを守っていたのかもしれません。

EW:野生絶滅
CR:絶滅寸前
EN:絶滅危惧
VU:危急
CD:保全対策依存
NT:準絶滅危惧
LC:低危険種
DD:データ不足
NE:未評価

雰囲気を感じてもらうために沢山掲載させていただきました。

他の植物には過酷な環境だからこそ、環境に適用したことと、高い山のために他の場所への進出が難しいことから固有種になったのだと感じました。

葉の部分を拡大いたしました。

さらに葉を拡大しました。何枚かの葉はピントが合っていると思います。表面に細かな毛が付いています。これにより銀色に輝いているのだと思います。

さらに葉を拡大して見ました。是非ともクリックしてみてください。細かな綿毛は鉱山での保温の役目と紫外線を防ぐ役割もあるようです。このような植物の文献「セーター植物・温室植物にみる極限の適応」には、似た植物としてヒマラヤ地域に右の写真のキク科トウヒレン属のワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)など6種があると書かれていました。


今回、ギンケンソウ(銀剣草)の写真を撮ったのは❺のオニヅカ・ビジター・ステーションの近くでした。Googleマップでは、この辺りはMauna Kea State Park - Halepōhaku Areaと書かれていました。
❹ 2回目の休憩場所 マウナケア州立公園(1989m)
❺ 夕食および高度順応場所 オニヅカ・ビジター・ステーション(2801m)
❻ 沈む夕日を見る場所 マウナケア山頂(約4200m)